風邪を拾いそうだった朝晩の涼しさもほんの数日ほど、
あっと言う間に熱帯夜気温へ届きそうな
蒸し暑い晩が戻って来た九月の頭であり。
涼しくならんとなかなか寝つけない夜長を明かし、
朝は朝で、窓から吹き入る風こそ涼しくとも、
起き出せばすぐにもじんわりと汗が滲んでくるのが、
どれほど暑い中で寝てたかの証拠なようで。
今年も酷暑だった夏の置き土産、
ロスタイムみたいなもんじゃね?なんて、
年嵩の連れが暢気な言いようしてたっけ。
“インジュアリ・タイムだってか?
だったら尚のこと要らねぇから とっとと失せな。”
それでもまま、
よほどのこと気の利いた設計士の手になるものか、
眸を伏せたまま寝そべるベッドには、
その朝 一番清かな風が、
自分の意志で身を起こすまで
さやさやとそよぎ込み続けるのがありがたい。
起き出さぬ限りはスイッチも入らないということか、
肌のさらさらも持続するからで。
“まあ、気のせいかも知れねぇけどな。”
大きくて柔らかな枕を、
両腕で抱き込むようにしてうつ伏せて。
辺りに降りそそぎ、少しずつ濃度を増してく、
朝の光の真白な目映さからも、無理から意識を遠ざけて。
死んだ振りならぬ、眠った振りを続けておれば、
「こぉら、いつまで寝てんだ、お前。」
そちらはすっかり目を覚ましたか、
生気の張りも伸びやかなお声が降って来て。
ベッドがわさりと上下したのは、
彼がわざとに どさりと腰掛けたから。
「起きな、起きろ、起きねぇか。」
「どんな変格活用だ、それ。」
何だ古文のテストでもあるんか?
実力テストが来週の頭に、じゃあなくてだな。
律義にもきっちりとノリツッコミも処理したその上で。
金の前髪の陰から金茶の瞳をうっすらこじ開け、
シーツに埋もれかけてたが、
すぐ間近にあった大きな手を捕まえると、
「今日は土曜だぜ? ガッコは休みだよ。」
「そんでも一回戦はあるんだろうが。」
早速にも始まっている高校生たちのアメフト選手権。
俺んトコはシードかかってるよ、と言いかかり、
あ・そうだそうだと思い出す。
気になるガッコがあったんで、
偵察(スカウティング)に出向く予定だったんだっけ?
“こういうコトんだけ律義というか、
覚えてやがんのってどうよ。”
さりげなくとはいえ、
毎日言い続けてた
お気に入りグループの新譜の発売日をすっぽかして、
特別限定ダウンロードをし損なうわ。
コーヒーに砂糖は入れないというのもなかなか覚えねぇわ、
○×スタジアムの新しい駐車場への
国道からの進入路の曲がり順も、
もう1年にもなんのにやっぱり覚えてねぇで、
ぐるりと一周するのがお決まりだったりするわ。
そういうのを指して
“もうそんな年か”とからかう年下のカレ氏への、
一応の意趣返しなんだろかねと 唇をひん曲げてから。
「起きてもいいけど、
シャワー浴びてジンジャエール飲みたい。」
「おうよ。
シャワーの温加減も設定済みだし、
下のパン屋で焼きたてグリッシーニも買って来たぜ。」
てぇいどこまでもと、
至れり尽くせりな手際に細い眉がぎゅうと寄ったのもいっとき、
「………っ、判った判った。自分で行くから降ろせ、ルイっ!」
問答無用と軽々シーツごと抱え上げられては、
妖一坊っちゃんの負けでしょか。
そもそも誰のせいでかったるい朝なんだかと、
往生際の悪いことをぶうたれてると、
ボディブラシ持ったお兄さんが、
背中を流してあげようとやって来かねませんことよ?(苦笑)
「〜〜〜〜〜〜。///////」
なんてまあまあ爽やかな朝なんだかと、
それでも微妙に口の傍が微笑っておいでな金髪坊や、
もとえ 高校生の蛭魔くんで。
さぁさ、クリスマスボウルが待ってるぞ、起きた起きた。
〜Fine〜 11.09.02.
*久し振り過ぎの“十年後”篇でございます。
小学生のころは回復力が抜群だったその行動力が、
大人並みのゲインとなったので、
若いからこその柔軟性から応用も縦横に利けば、
大人並みに体力も膂力もついてようから、
ある意味“最強な”蛭魔くんに最も間近い頃合いですが、
誰かさんには微妙にかなわなくなりつつあるようで。
………恋って不思議だなぁ。(くすすvv)


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